今回は、9月にメディアドゥ電子図書館システムを導入した潮来市立図書館で館長を務める船見康之さんをお招きして、電子図書館を導入するに至った経緯や将来のビジョンなどについてお話をうかがった。(取材日:2015年12月17日 聞き手:月刊ほん 編集担当)(第二回)
■第二回■ ・図書館カードとの連動は敢えて行わなかった―システム開発よりコンテンツ揃えにお金を費やしたかった―発行するID・パスワードは綺麗にパッチし財布に入れられる形に― ・初期の電子図書館サービスは商用データベース利用の場合と同じと考えればいい。そうすれば、いろいろな課題をクリアできる ・電子図書館サービスを成功させるために必要なこと―それは現場のスタッフが、まずこのサービスを自分達のものだと思うこと ・電子図書館サービスの利用状況が公開されない理由―それは利用率が低いからに他ならない ・電子図書館サービスは、一度始めたら止まってはいけないサービスだと思う |
✐図書館カードとの連動は敢えて行わなかった―システム開発よりコンテンツ揃えにお金を費やしたかった―発行するID・パスワードは綺麗にパッチし財布に入れられる形に―
―電子図書館利用登録の仕様に関して簡単にご紹介ください。
船見:利用者登録に関しては、龍ケ崎市立中央図書館さんとほぼほぼ同じ管理方法になっています。既存の図書館システムとは連動させていません。個別にID・パスワードを配布する形で利用登録を進めているんですが、図書館の利用カードとの互換性はないですね。なので、このID・パスワードをうちではテレホンカードみたいな感じで綺麗にパッチしてあげて、図書館カードと同じような感じの作りにしているんですよ。
電子図書館利用者カード
―これはかっこいいですね。
船見:ありがとうございます(笑)。結構本気度の高い造りになっています。図書館で利用カードを持っている人であれば誰でもID・パスワードが記載された電子図書館用のカードを申請することができますし、これから新たに新規で図書館カードを作りたいという人はセットで発行することができます。もちろん、潮来市立図書館の登録条件によりますけどね。
―一般的な電子図書館の場合、図書館の利用者カードの利用番号で本を予約したりするサービス、つまり図書カードと紐付いたサービスが割りと主流になっています。今おっしゃいましたような電子図書館カード別個ID・パスワードを発行するとなると、一度図書館のカウンターに足を運んでいただくという形になりますよね。
船見:そうです。なぜ、このID・パスワードを配るかというと、普通であれば、図書館システムと連動させて利用者カードの番号で紐付けさせて提供するのがいいだろうと考えていたのですが、それをするにあたってまず図書館システム会社さんと相談して、さらにメディアドゥさんとOverDriveさんのほうでも打ち合わせをして、少なくとも何らかのプログラム開発が必要となります。そうすると多少のお金がかかるわけです。それをやっている余裕があるのであればその分電子図書館のコンテンツを入れちゃったほうがいいと僕は思っています。後付けとして、利用者の反応を見て既存のシステムと紐付けしたほうがいいとなれば後々そのアクションを起こせばいいだけの話です。今は「潮来市立図書館の電子図書館」の普及に力を入れたほうが吉だというふうに考えてたんです。
結果的に、こういったID・パスワードのカードを発行するということになったんです。これも、ある図書館では紙っぺらなんです。紙っぺらに書いてあるものを渡すんです。そうすると利用者は紙っぺらをどうするかというと、財布にしまうか? というと…しまわないです。たぶん書斎や部屋のどこかに置いてきちゃうでしょう。そして紛失すると思います。一方で利用者カードはどこに入れるかというと、財布に入れるんですよ。それなら同じく財布に入れられる形にして配れば、電子図書館のID・パスワードを紛失するリスクは減るだろうと思って、このような形になりました。
―今のお話はとても重要なことだと思います。図書館システムの認証サーバーと電子図書館システムが連動しなければいけない、というのは今までの固定的な考え方でした。図書館システムのベンダー様と電子図書館のプラットフォームを提供されているところとの仕様のすり合わせとそれにかかる費用に妥当性のある見積もりを出さなければならない。
船見:そうです。あと技術的に可能なのかどうかですね。
✐初期の電子図書館サービスは商用データベース利用の場合と同じと考えればいい―そうすれば、いろいろな課題をクリアできる
―これがおそらく、今電子図書館を導入しようかしまいか悩んでいらっしゃる公共図書館の足を引っ張っているんじゃないかと思いますが。
船見:確実に悩みのひとつだと思いますね。結局のところ、費用が少なくともかかってしまうので導入したいという気持ちがあっても予算化しなければいけない、システムの仕様を考えなければいけない、打ち合わせをしなければいけない、その時点でもうやる気がなくなりますよね。希望だけが先に行っても現実はハードルだらけですから。僕の考えた理想形はそうじゃなくて、はじめの導入は図書館システムと切り離していいんです。そのほうがまずいろんな課題をクリアできます。例えば、図書館の商用データベースって日経テレコン(*1)などいろんな新聞系データベースを入れていますよね。今のOverDrive社のプラットフォームはそれと同じ感覚なんです。図書館は電子図書館というデータベースを入れて、それを利用者に提供しているんです。それが通常であれば図書館に来ていただいてから使えるのが商用データベースの一般的な仕組みなんですけど、自宅にいながらでも図書館が提供する商用データベースを使うことができるという考えにシフトさせたほうがいいと思いますね。
―これはコロンブスの卵ですね。
船見:そのほうがいろんな問題が一瞬にしてクリアできますし、システムと切り離すのであればOverDrive社との契約料だけ考えればいいわけですから。これは非常にシンプルな考え方です。一度来館していただいて、ID・パスワードを配布するということは、うちの図書館としてはラッキーだったのです。なぜかというと利用案内ができるからです。システムの操作方法をその場で説明することができますから。発行するだけしました、家に帰りました、でもやり方分かりませんでした、図書館に電話しよう、ということでは利用者の足を引っ張ってしまいますよね。せっかくの興味を削いでしまうんですよ。そうじゃなくて、その場で、たとえば、「ここにID・パスワードが書いてありますから、ここのQRコードをパチってやっていただいて、そこにログインするときにこの番号を打ち込んでください。そうするとこういう画面が出てきて、こうしてボタンを押したらもう利用できますよ」というふうに説明できますから。
✐電子図書館サービスを成功させるために必要なこと―それは現場のスタッフが、まずこのサービスを自分達のものだと思うこと
館内の様子
―いくつか電子図書館を導入している図書館を見に行ったことがあるんですが、図書館の現場の方々は問い合わせ対応が非常に面倒だとおっしゃいます。
船見:結局、説明をする以上は、僕だけではなく現場にいる窓口のスタッフ全員が同じような体制で説明できますから、利用者は安心することができるんだと思います。ですからスタッフ全員徹底的に研修しました(笑)。まあ、自分達の電子図書館サービスがどんなものなのかということを知ることができますし、勉強になりますし、スタッフ全員の意識共有を図れます。そうした意味ではうちは結果的にはラッキーだったんですね。
―今のお話は、おそらく電子図書館サービスの導入を考えていらっしゃる図書館の現場の方や管理されている方々を含めてとても目からウロコのような話ですね。
船見:結局のところ、館長がやっているから上司がやっているから、あの人達がやっているから私達には関係ない、ということではなくて一般の小説だったり新刊図書だったりそういったものを提供するのと同じように、図書館職員みんなでこの電子図書館を提供しているわけですから、利用方法だったり操作だったり説明できないとだめですし、それをパートスタッフでも知ることができるということはパートスタッフにとっても図書館スタッフの一員としてモチベーションがあがりますから。