月刊ほんインタビュー
電子図書館特集
潮来市立図書館館長 船見康之氏
第3回

アイキャッチ 今回は、9月にメディアドゥ電子図書館システムを導入した潮来市立図書館で館長を務める船見康之さんをお招きして、電子図書館を導入するに至った経緯や将来のビジョンなどについてお話をうかがった。(取材日:2015年12月17日 聞き手:月刊ほん 編集担当)(第三回)

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■第三回■

・指定管理にしないと電子図書館ができないという発想がおかしい
・紙の本とデジタルは本質が違う。だから、予算項目は分けておくべき
・オーディンブックとKIOSK端末の利活用へ期待
・本を介するサービスだけが図書館サービスではない

✐指定管理にしないと電子図書館ができないという発想がおかしい

―指定管理者が入っている図書館で電子図書館を導入しているところが多いのですが、その事業の永続性や発展性を含めてどう考えていくかということについてあまり聞いたことがありません。図書館の事業ですのでその事業の永続性を考えたときの思想がどうかということが気になります。

船見:その点に危惧します。実は潮来市立図書館で電子図書館サービスを導入すると起案したのは図書館側、つまり僕なんです。僕が潮来市に対してこういうサービスを始めませんかと提案して、それに対して市役所が反応を示したのは、綿密な企画書の提出でした。将来的なビジョンもさることながら、どういうふうなコンテンツをどういうターゲットにどういう思想に基づいて提供するのかと事細かく自治体とすり合わせをした上で起案したんです。そのときの資料作成は大変でしたね。最終的に潮来市が電子図書館サービスを始めたと記者会見をしたのが市長です。この記者会見を経て自治体すべての理解のもと、議会の方々も満場一致で納得して、学校の方々も納得して9月1日にスタートしたんです。

 僕が潮来市立図書館で気をつけているのは、基本的にどんな事業であったとしても全部自治体に対してプレゼンテーションを必ずやることです。指定管理者だから好き勝手事業をやっているわけではなくて、企画に沿った実施要綱のほかにこういったところを参考したという情報、そして事業が終わったあとの報告書、次なる発展的な見解といったものを全部ひっくるめて自治体にデータごと渡しているんです。なぜそうするかというと、万が一うちの会社が図書館を離れなければならなかったといったときに、別の会社に移管したとしても、潮来市が直営しても、ノウハウが残るからサービスが続けられます。それをやるのが指定管理者として不可欠なことではないでしょうか。プロポーザルをするときにどの業者も「自治体の皆様と図書館を作り上げていきます、ノウハウの蓄積をしていきます」と謳っているんですよ。でもほとんどの業者はそれをやらないですよね。嘘っぱちになっちゃいけない、ノウハウをちゃんと残していかないといけない。これに関してとても気をつけています。逆に潮来市としてはちゃんとノウハウの蓄積を現場のほうでやっていくから向こうは安心して図書館のサービスを評価することができるんです。だからボツになった事業もいっぱいあるし、電子図書館についてもずいぶんやりとりしました。

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 僕は冒頭で電子図書館はTRC-DLしかないのか、と言ったときにハタと考えたんですが、結局TRCに指定管理頼んだからできたのではというふうに思っている図書館って結構多いと思います。

 指定管理に出さないと電子図書館ってできないのか。それっておかしいですよね。直営であったとしても手が出せますし、みんな試行錯誤しながらやっていますから。先進的図書館と言われていた山崎さんの秋田県立図書館だって指定管理ではなく自治体直営ですから。頑張って企画を積み上げていろんなところから助成金や補助金をもらってみんな悩みながらやっているんです。それが指定管理にしないとできないなんて発想はおかしいです。かといって僕の中では電子図書館の話とはちょっとずれちゃいますが、基本的に指定管理を受ける以上は、どんな理由があるにせよ自治体及び市民にちゃんと目を向けているかどうか? 自分の会社の利益だけに目が向いていないかどうか?を絶えず意識しています。これができないで経費削減だけを目的とした指定管理者制度の導入に僕は大反対。やらないほうがいいです。

 

✐紙の本とデジタルは本質が違う。だから、予算項目は分けておくべき

―よく問題になるのが、図書費とデータベース予算または電子書籍予算、特に電子書籍という予算項目が公共図書館の中ではほとんど項目化されていない中で、潮来市立図書館におかれましてはどのような形でやっていらっしゃるのでしょうか?

船見:指定管理の予算の中で「図書購入費」ではなくて「電子図書館費」で計上しています。それは潮来市の方々もみんな納得済みです。なぜかというとデジタルのコンテンツと紙の本ってやっぱり違いますから、区分けしたほうが分かりやすいでしょう。

―紙の本の場合には、ある意味図書館の購入した資産になるんですが、電子書籍の場合はどうしても貸与されているコンテンツと考えてしまう。電子ジャーナルと同じように契約で成り立ってしまっている。契約が切れた瞬間にコンテンツが使えなくなるといった場合に紙の本と予算項目の立て方が違うということになりますね。

船見:そうです。トータル的な大分類として「図書館費」は備品扱いなんですが電子図書館費は消耗品扱いになってしまいます。

―おそらくどこの公共図書館でも、そこにすごく悩まれていらっしゃると思いますが。

船見:潮来市も実は図書館資料費でいいのでは?と言われたんですが、そこで僕が待ったをかけました。なぜかというと、紙の本って残す気であれば未来永劫ずっと残っていくと思いますが、デジタルの場合は契約が解除されてしまったりコンテンツによっては回数制限があったりしますので、それを更新しないとなると除籍と同じ扱いになります。ですから紙の本と本質が違うから予算分けしておかないと後々面倒なことになります。