月刊ほんインタビュー
電子図書館特集
株式会社メディアドゥ 溝口敦氏
第2回

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第1回|第2回|第3回(近日中公開)


 

―現在、御社のシステムを運用中の龍ケ崎市立中央図書館(*3)や潮来市立図書館(*4)の場合でも、具体的な問題提起を図書館の方からしてもらって、図書館と御社の間でその内容を検討、解決して導入に至ったのですか?

溝口:はい、そうです。彼らは『電子図書館サービス』に元々興味ある方々でして、やりたいというニーズがあったんです。でもそのニーズがあったからすぐにできるというわけではありませんでした。例えばコンテンツラインナップの選択肢が狭い中、どういうものを揃えれば彼らのニーズを満たすのかなど、解決しなくてはならないことがもう山のようにありましたが、それを丁寧にひとつずつ解決していきました。ただ、当然全てを解決できたわけではないので、今でも各図書館の方々と向き合っています。よりよい図書館を作るために、常にお話をし続けている状態です。

―図書館からの相談などは結構ありますか?

溝口:あります。図書館総合展が終わってからも増えました。やっぱりそれぞれ解決しないといけないことが違うことを実感しています。

―これら相談内容をまとめていくと、パターン化されていくかもしれませんね。

溝口:それぞれの問題にひとつずつ答えていくうちに、図書館の持つ問題の六割か七割にあたる問題が見えてくるように思っています。おっしゃるようにパターン化です。それに対する解決策を我々が準備することで、より多くの図書館が『電子図書館サービス』導入の検討をしやすくなると考えています。

 

✐『電子図書館サービス』事業に参入した理由―それはメディアドゥの事業理念の実現のため。コンテンツを届ける役割の中の図書館は絶対的存在の一つだ。

-そこから御社のビジネスが見えてくるんですよね。

溝口:ビジネスですか……仮にビジネスを短期的な利益だとした場合、現時点ではその考え方はあてはまらないと思いますよ(笑)。

―といいますと?

溝口:我々は企業である以上、このビジネスを利益に繋げなければなりません。それは営利企業として大前提なことですが、特にIT業界ってすごく事業周期が早い。すごく流行っていたサービスが3年でビジネスモデルが壊れて、元気が無くなるという会社はいくらでもあるんです。それを回避するためには、将来を考えた上で、自分達の投資を今見えないモノに対していくつも注いでおかないと先がなくなってしまいます。
 
 メディアドゥという会社は、最初は携帯電話の販売をやっていました。その後、ITに参入して一度痛い目にあっています。そこから学びを得て、仕切り直しで音楽配信をやって、その音楽配信の利益を電子書籍事業に投資し始めたのが8年から9年前です。私がメディアドゥに入社したのはこの頃です。当時、うちの会社にとって電子書籍事業はどうなるかわからない事業だったと記憶しています。音楽事業部からすると、ゼロから電子書籍事業を立ち上げて巨額な投資を進めている部隊に対して、「どうなるのかな?」と少し懐疑的に感じている状態でした。でも8年経った今、電子書籍事業の売上はメディアドゥの売上の90%以上を占める事業になっている。やっぱり長期的な視点に立ち、チャレンジしていくという姿勢がなければ、企業としては成り立たないというのが基本原則です。

 「じゃあなんで、今『電子図書館サービス』なんですか?」という話に戻ると、そもそもメディアドゥの事業理念で「ひとつでも多くのコンテンツをひとりでも多くの人に届けること」というのがあり、これは我々にとっては絶対原則なんです。ですから、何か手掛ける場合は、ここに沿っているかどうかが必ず問われます。電子書籍事業を立ち上げ、世の中はガラケーがスマホに切り替わっていく中、電子書籍の販売以外に「我々がより多くのコンテンツを届けるための手法は何なのか」を考え始めたのが大体4、5年くらい前なんですよ。そのときに、アメリカに目を移してみたら、『電子図書館サービス』の世界があって、それが非常にうまくいっていることを知ったのです。これは、きっといつか日本でも本格的に必要とされるときが来ると思いました。そこで、OverDrive社にアクセスし、彼らと話してみたら、彼らが投資している額というのは半端ない額でしたし、彼らがいなかったらアメリカには電子図書館がないくらい『電子図書館サービス』の完全な先駆者でした。

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 我々としては、極端な言い方になってしまいますが、「どんな形でも本を届けたい」と思っています。紙であろうがデジタルであろうが、それが販売という形なのか、そうでないのかはさておき、読みたいという人に届くことが第一優先で、それに対するビジネスモデルをどうするのかという話は、サービスを成立させるための手法だと思っています。たくさんの人に本を読んでもらいたい、そのためには、本を届けるという事の多様性を確立する必要性がある。この想いを早く成就させるために、新たなビジネスモデルとして『電子図書館サービス』がやっぱり必要だったのです。ただ、電子書籍の販売ビジネスですら、ある一定の結果を出すのに約10年近くかかったわけですから、『電子図書館サービス』のビジネスが、来年うまくいくという話はなく、5年や10年かかっていく事業だと思っています。それでも我々はコンテンツを届ける役割の中の図書館というのを絶対的存在の一つだと考えているので、この事業に投資しているわけです。これは今儲かるとか儲からないとかの話ではなく、本質的に将来があり、本の未来にとって必要だと思うからこそ投資しているわけです。

 

―御社の事業理念を実現するための一手段が『電子図書館サービス』だったということなのですね。まさに図書館の方々と同じだと思います。図書館の方々といってもいろいろな人がいらっしゃるとは思いますが、基本的には「本をたくさんの人に届ける」「一冊でも多くの本を一人でも多くの人に届ける」ことを目的とした方々です。いろいろな問題に直面しながら、日々この想いを思い起こされながら仕事に従事されていると思っています。今のお話、大変驚きかつなぜ御社がこのビジネスに参入されたのかが良く分かりました。もっとこのことを図書館や行政の方々に知っていただく必要があると思いますね。

溝口:はい、ぜひ知っていただきたいですね。我々のような組織のいいところは、会社の舵取りをする経営陣が現場に立って『電子図書館サービス』事業に力を入れていることだと思います。大きな組織と我々のようなベンチャー企業との違いは、経営トップが一事業に本腰を入れられるか入れられないかが大きいと思います。例えば、社員を何千、何万人も抱える企業の社長は、いろいろな事業がある中で、直接どこかの事業にだけ入り込むというのは物理的に不可能ではないでしょうか。つまり、どんなに一生懸命になっても経営トップの判断は現場に下りてくるまでに時間がかかりますし、間違って伝わることもある。また、現場の考えも経営トップには届きにくくなる。しかし、小さな組織は、経営トップが先頭に立って事業に取り組むことができます。単純に時間軸が短くなりますし、トップが持つ情報の濃さも変わり、現場との意見が食い違うことも少ない。

 我々くらいの規模の会社が、例えば図書館総合展だとか、東京ブックフェアであれだけの大きさのブースを出すというのは、よほどの意味合いとトップの決断がないとできないのではと思います。これが、今、我々メディアドゥが『電子図書館サービス』事業に本腰を入れていることの証拠です。本気で電子図書館を普及させたいと思っていない限り、この段階でこの投資は難しいのではと。ベンチャー企業がひとまずやってみようという気持ちで立ち上げられるようなサービスの枠を越えていると思いますし、その分投資額も必然的に多くなっています。こんなことからも、我々の本気を是非感じて頂ければと思います。

 

(第三回へつづく)

溝口 敦 (みぞぐち あつし)

株式会社メディアドゥ取締役事業統括本部長
2000年NTTドコモに入社し、2008年よりメディアドゥに参画。
国内の電子書籍配信事業、OverDrive Japanをはじめとした海外展開事業を担う。


 指定管理者(*1)
住民サービスの向上を図ることを目的として公の施設の管理・運営を民間事業者を含む幅広い団体に委ねることができる制度。

北海道など導入が早かった(*2)
2002年6月に、日本で始めて電子書籍サービスを提供する図書館として、北海道岩見沢市立図書館が岩波文庫の電子書籍を導入(2015年現在サービスが休止している)。また、札幌市立図書館では電子図書館実証実験が2011年10月より実施された。

龍ケ崎市立図書館(*3)
2015年7月より、OverDrive社の電子図書館システムを導入。
龍ケ崎市立電子図書館http://goo.gl/2HnGGr

潮来市立図書館(*4)
2015年9月より、OverDrive社の電子図書館システムを導入。
潮来市立電子図書館http://goo.gl/4qdrgK