月刊ほんインタビュー
電子図書館特集
株式会社メディアドゥ 溝口敦氏
第3回

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『月刊ほん Vol.3』では、アメリカにおいて公共図書館に『電子図書館サービス』を提供する会社として圧倒的シェア誇るOverDrive社と2014年5月に戦略的業務提携を発表した株式会社メディアドゥの取締役事業統括本部長 溝口敦氏に日本の図書館への電子図書館サービス導入に関して、現状や今後についてお話をうかがった。(取材日:2015年11月24日 聞き手:月刊ほん 編集担当)(連載第三回)

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■第三回■

・誰か一人が勝つビジネスモデルは永続的に続かない
・今求められていること、それは電子書籍に対する考え方の転換=ITの活用だ。
・本は、本を読む人の大きなプラットフォームだと思った方がいい

✐誰か一人が勝つビジネスモデルは永続的に続かない

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―ところで、メディアドゥさんが『進撃の巨人』を海外向けに取次開始するとか、LINEマンガで日本のマンガを海外向けに配信するとかいうニュースリリース(*1)を拝見しましたが、これはあくまでもアメリカ(海外)に出したということですか?

溝口:進撃の巨人はアメリカ向けの電子書店および電子図書館向けに出しました。LINEマンガは、台湾市場向けのサービスを開始しています。

―よく出版社さんがOKされましたね。

溝口:出版社さんのOKというよりは、私どもと出版社さんの想いとタイミングが一致したということだと思います。マンガを発刊している出版社さんが世界市場を拡大する点において大切にすることの一つは「マンガを読む人を増やす」ことです。つまり、当然ですがまずマンガという文化を知ってもらうことが大変重要で、そのための武器としてIT=電子書籍を使うという時代になってきたということです。そして、その中でも文化の発信地の役目を担う図書館を使っていく、必然的に手段としては電子図書館だなという考えが両社で一致したという流れです。

―「日本で」という話にはならなかったですか?

溝口:もちろん話はありますが、日本ではまだ難しいのが現状です。日本にはマンガ文化そのものがあり世界とは状況が違います。この背景の中で、マンガを電子図書館に置くためには、目的を明確にして、そこに向かって進んでいく必要があります。出版社さんにとって重要な指標の一つは「本がどれくらい売れるか」なので、その指標に対して、日本の電子図書館が寄与すれば目的の一つは達成されます。電子図書館でマンガが読めれば、読む人口は増やす事ができると思いますが、販売につながるかどうかはまだ不明な部分もあります。
 マンガ自体は図書館向けコンテンツとして可能性があると思っています。紙の本の話ですが、僕の地元の図書館は、マンガを1万冊以上置いているところがあり、よく借りられているという話を聞きますし、司書さんも真剣に選書をされ、本と向きあう環境を作られている。マンガを読む層を開拓しているという部分において、成果があるのだと感じます。
 日本でマンガの電子図書館向け配信はなかなか進んでいませんが、今全く配信がゼロという訳ではないので、意味があるという事を一つずつ積み重ねて証明するしかないと思っています。図書館さんやお客様が「必要」とされていると感じていますので、我々も実地を積み重ねて成果を明確にし、出版社さんとお話していく必要があると考えています。

―日本の公共図書館でマンガの本を集めているところが結構増えているのは事実ですね(*2)。それは、今、マンガが図書館の利用率を上げるためひとつの手立てや切り口にはなりつつあるからだと聞いたことがありますが。

溝口:マンガを購入されている図書館さんが多いのは事実だと思いますが、目的は利用率を上げるためだけではないと思います。図書館さんは文化の担い手であり、そのために本と触れあう場所を提供されていますから、マンガがその一翼を担うと考えて提供されていると。それは、紙の本を電子書籍に置き換えても同じです。

 話を少し変えて、敢えて悪い例を出しますが、アメリカではスーパーが集客のためにCDを原価割れで販売した結果、タワーレコードなど主要のレコード店は廃業に追い込まれました。ところが、その後アメリカの音楽ビジネスは、物理的なCD販売ビジネスに限界を感じ、デジタル配信やサブスクリプション(*3)で生きる道を模索し始めました。これにより、量販店がCDを販売する道が途絶え始めています。確かに市場原理ですし、変化とは正にこういう事なのですが、動きが極端なんですよね。この例は、電子図書館向けコンテンツとしてのマンガの話に直接対峙できるものではありませんが、こんな風に極端な動きとか議論にはしたくないなと思っています。  
 
 将来設計も含めて図書館にマンガがあることは意味があると思っています。ただ、出版社さんと作家さんにとってその意味は何なのか?ということが重要です。ビジネスにおいて、誰か一人だけが勝つのはだめなんです。誰か一人が勝つビジネスモデルは永続的に続かないということを我々はよくわかっているつもりです。お客様だけにメリットがあってもだめだし、書店だけが勝ってもだめだし、出版社や我々だけが儲かってもだめです。そのバランスを電子書籍販売の中で今までずっと我々は培ってきました。このことは、『電子図書館サービス』事業の場合でも全く同じなんです。図書館やお客様のメリットだけ謳っても、出版社の誰もついて来てはくれない。ついて行きたくても行けないんです。逆に、出版社や書店さんの理論だけ言っても、図書館の人は「なんでコンテンツ集まらないんだ」という文句にしかならない。お互いのポジションをよく噛み砕いて、お互いの理解を深めて行く必要があります。そのために必要なのは、それぞれが取り組んでいることについて明確な目的を持つことではないでしょうか。全ての利害関係者が良しとして進めないと、どこかで歪みが生まれます。その結果、出版文化が衰退しては本当に意味がありません。

―一部の出版社ですが、相変わらず「図書館は貸本屋だ」と言っているところもありますね。最近では、先だって行われた図書館総合展で、新刊書の扱いについての某出版社の社長発言(*4)が話題になりましたが、「コンテンツを出さない出版社VS欲しいコンテンツがない図書館」という構造をここ5、6年見てきた中の某社長の発言は、あくまでも個人的な感想ですが、「これからどうなるんだろう」と思ってしまいました。

溝口:ネット上ですごく話題になっていましたね。
 出版界の話は、ちょっとし辛いですね(笑)。代わりと言ってはなんですが、ここでは音楽業界の話をさせてもらいましょうか。例えば音楽CDです。新譜が販売されるタイミングとレンタルCDが出るタイミングってずれているじゃないですか。何年か前にそういう取り決めになったんですね、販売を守るという目的です。ところが、この取り決め後くらいから徐々に販売額が鈍化します。当時そのニュースを見て、私が最初に思ったのは、音楽に触れる時間が単純に減ったからかなということです。音楽を手に取る手法は様々ありますが、レンタルが持っていたユーザーリーチのウィンドウが単純に小さくなって、音楽消費行動そのものが減ったのかもって。もちろん、そのせいばかりではないというのが前提ですし、あくまで私の個人的な主観ですが。
 この前後で、ネットによる海賊版の問題も出てきています。オンタイムで音楽を安価に聴きたいユーザーは、(違法ですが)ネットにより無料で聴ける手法に走りました。ユーザーは別の手法を手に入れたということです。
提供側のロジックを無視したところに、ユーザーの価値観があるのではと思います。このコンテンツを楽しむために、この価格なら、この行動なら、この制限なら受け入れられる。音楽業界はまさに、ずっとこれと対峙してきたのではと感じています。提供側とユーザーの価値観の摺り合わせ。これを一度間違えると取り戻すのは本当に大変なのではと思います。
 
 ユーザーに迎合しろという単純な話ではありませんが、ユーザーの価値観も大切にした方がいいよということを、音楽業界の例は教えてくれていると思います。

―出版社某社長のこのニュースについて、朝日新聞社の林さんが「実際公共図書館に何冊本が買われているのか?」に関する統計処理をした上で意見を述べていらっしゃいました。(*5)その統計を見て実は驚きました。何故かと言いますと、結構な冊数が図書館に買われていてかつそれが貸出しされていたからです。これは、出版社が図書館の貸出行為によって大変な機会利益を損失している可能性があることを示しているのではないでしょうか? このことについて、図書館の方々も出版界の方々も本気で議論をしたことがないように思います。
『電子図書館サービス』が導入された瞬間に起きるかもしれないこと、および電子書籍のマーケットとして図書館を考えた際に起こりうるさまざまな事象や問題を、御社のような会社であれば、出版社と図書館の間を繋ぎながらどういうモデルがあり得るかを探り実現していくことができるように思いますが。

溝口:我々は、常に立ち位置として真ん中にいる会社ですから、両サイドにメリットがない限りビジネスの成立はありません。だからどちらかサイドに肩入れするようなことは決してありません。フラットに見ないとだめなんです。ビジネスモデルも必然的にそうなります。そして、このことがよくわかっているから、そのロジックで動くスタッフしか我々の元にはいないですし、これからもそうあり続けたいと思っています。
 スタッフと共にどうやったら両者にメリットがあるのかということを考え、そのメリットを享受できる環境を整えていきながら、新しいプラットフォームを形成していきたいですね。その先にユーザーも納得できる『電子図書館サービス』があると信じています。
 私達は技術力と企画力を使って、おっしゃるような真のブリッジ役になりたいと思っています。

―ところで、北海道や東北で楽天さんが「楽天いどうとしょかん」を始められた(*6)ようですが、これから全国展開される予定はおありになりますか?

溝口:「楽天いどうとしょかん」は、楽天さんの話です(笑)。私からはなんとも言えないですが、もちろん広めたい、とはおっしゃっていましたね。この活動はCSR(*7)のひとつですから。

―御社が図書館と組んでの実験でも構いませんので「いどうとしょかん」的な取り組みをされれば、もう少し電子書籍に対する一般市民とか図書館の方々の反応が違ってくるんじゃないかなと思いますが、そうしたことをやられるお気持ちはないのでしょうか?

溝口:我々のようなまだまだ小さな会社で、全国を回ってそれなりの規模のことが実現できるかどうかが課題です。やりたい気持ちはありますが、今我々だけで日本全国で展開できるかというと、なかなか難しいと思いますので、現実的にはまず全力で楽天さんを支援させていただいて、その後に少しずつ歩を進めるということになるのではないでしょうか。
 パートナーのOverDrive社は全米を回る移動電子図書館をトレーラーで行っています。あんなことができたら、本当に楽しいでしょうし、意義のある事だと思います。