月刊ほんコラム 図書館司書のつぶやき
連載第六回
学芸員は「がん」発言の根底にあるもの

つぶやき

 

学芸員は「がん」発言の根底にあるもの

 
 地方創生担当大臣が、「文化学芸員」は「がん」と発言したことで、だいぶ波紋が広がった。「文化学芸員」という言葉は変な言葉で聞いたことがないが、「文科系の学芸員」という意味のことなのだろうかと、勝手に解釈している。大臣としては、こういう学芸員が文化財の維持・保存にこだわるあまり、それを一般の人、とくに観光でやってくる人々に見てもらったり、理解してもらったりすることについて配慮が足りないということを言いたかったのだろう、と勝手に推測する。

 「観光」も、かつてのものとは大きく変わってきた。雑な話をすると、日本でかつて観光というと、みんなでバスに乗り、同じ旅館に泊まり、お酒を飲んでどんちゃん騒ぎという感じだった。今も、バス旅行は流行っているが、むしろ、個人や少人数がベースの観光の方が主流であろう。そうなってくると、みんなでわいわいすることよりも、実際に訪れる土地の自然や歴史・文化等を深く学びたいという人が増えてきているのは間違いないと思う。そういう時に、学芸員がかえって、難しい雰囲気にしてしまって、それらの人々の興味をそぐようなことをしたり、こんなことがあったら楽しいのにという期待を裏切るようなことをしていると言いたいのかもしれない。

 それはそれでわかるところもある。しかし、あえて、学芸員の資格を持っていない、司書の私が反論すると、まず、博物館や美術館の展示は、過去に比べて格段にわかりやすくなった。私自身が美術館が好きでよく行くので、架空の話をしているのではない。今の学芸員が、もともと込み入った難しい内容を、かみくだいてわかりやすく伝えようとしている努力はもっと評価すべきだと思う。

 むしろ、問題なのは、今や、見る側の方ではないだろうか。いくらわかりやすくても、あまりにも教養や知識がなければ、何もわからない。ある程度のことがらは、やはり、前提として求められるのだ。そんなことはけしからんなどと言ってしまうと、いくら優秀な学芸員でもお手上げだと思う。例えば、フランス革命そのものを知らない人に、いくらブルボン王朝がどうだのこうだの言ったって、何もわからないだろう。フランス革命は、そういうのがあったということくらいは、中学や高校で教えられているので、小学生なら知らないだろうが、そうでなければ、いわば「常識」の範囲である。

 

 

 ただ、実際、そういう常識的な知識がない人が思いのほか少なくないのは事実として感じている。とくに、図書館の窓口で対応していると、非常に実感する。今回の件で、ひとつ思い出したことがあった。私は中高一貫の私立学校に行ったのだが、修学旅行は一応、中学と高校とでそれぞれあった。当時、東京近辺の中学校が修学旅行と言うと、判で押したように、京都・奈良だった。ところが、私の学校の社会科の先生は、「中学生に京都・奈良なんてもったいない」と言って、中学の修学旅行は九州にして、高校の修学旅行を京都・奈良にしていた。

 その理由は、中学生で習う歴史の内容はやはり浅すぎて、京都・奈良で立派な文化財を見たところで、大半はわからないだろうということだった。それならむしろ、高校で日本史をちゃんと学習してから見た方が良いというのだ(私の学校では、進路に関わらず、日本史は必修だった)。ちなみに中学の修学旅行が九州になったのは、キリスト教系の学校なので、九州だと関連するところがいろいろあったためだ。また、長崎で原爆の悲惨さを理解し平和について学ぶということもあった。