Library of the Year 2016 選考委員長と受賞機関のコメント

■選考委員長のコメント

「2016LoYを終えて」
選考委員長 山崎博樹

 2016LoYは、11年前に始まった過去のLoYを振り返ってみても大変な激戦であったことは間違いないだろう。その意味も込め、日本の図書館が進むべき新しい道を切り拓いてくれた受賞6機関に、まずは最大限の賛辞を贈りたい。
 昨年11月、LoY中止のアナウンスの中で、水面下でLoY再開のための検討が始まっていた。近年、LoYは図書館内外から注目を浴びるようになり、中断が長引くことは図書館界にとっても決してプラスにはならないという考えが、知的資源イニシアティブ(以下、IRI)の高山代表理事、担当理事、関係者にあった。しかし、再開するとなるといくつかの改革が必要であった。その一つは選考委員の増員と委員名の公開であった。経験や地域も考慮し、14名の選考委員を候補として打診を行ったが、全員から了承を得ることができた。次に協力していただく団体・企業への依頼を行った。幸いなことに図書館総合展運営委員会が共催を引き受けてくださり、2企業がスポンサードしてくれることになった。このことにより、今年度も選考委員が候補機関を実際に訪問する機会を得ることができた。最終選考会に来場していただいた方々の意思をどう尊重するかも大きな課題であった。
議論の末、オーディエンス賞を設けることになった。因みにこの名称は、猪谷千香選考委員が発案してくれたと記憶している。
  
 一次選考では、18機関が公募で、35機関が選考委員により、推薦された。すべてが素晴らしい図書館サービスを実践している機関ばかりであり、選考は困難が予想された。4時間におよぶ長時間の討論を経て18機関が決定し、二次選考に進んだ。二次選考会は一般公開で行われた。当然ながら18機関から優秀賞対象機関を選ぶことはさらに大変難しいことであったし、選定される機関の関係者を目の前にして議論するという状況は、大きなプレッシャーを選考委員に与えていたであろう。ここで、選考委員長である私から、ライブラリアンシップ賞新設の提案を行った。突然の提案であったこともあり、当初はとまどった選考委員もいたが、最終的には全員の賛成を得ることができた。提案の背景として、今回この賞を受賞した鳥取県立図書館と伊万里市民図書館の実績を考えた時に、従来のLoYの物差しで他機関と比較することは難しいと思った。また、10年から20年という長期間にわたって優れた図書館が中核となってサービスを継続することは、大変困難なことであり称賛に価することである。なお、ここで言うライブラリアンとは、その機関の職員だけではなく、図書館に関係する住民や他地区の図書館員も含んだ広義の意味合いを込めている。今後もこの賞に該当する機関が推薦されたら、積極的に授与していくつもりである。
 
 大賞、オーディエンス賞を決める最終選考会には4機関が進んだ。公開した議事録から2次選考会が大変な激論であったことからもわかるとおり、どの機関の活動も非常に優れたものであった。ある意味、2016 LoYはここで完結していると言っても差し支えつかえないと思っている。
 2016年11月9日総合展特設会場に200名の来場者を迎え、最終選考会が開催された。今年度から優秀賞の4機関の紹介は、その機関の担当者や関係者が行うことになった。伊丹市立図書館ことば蔵(以下、ことば蔵)と東京学芸大学学校図書館運営専門員委員会(以下、学芸大学校図書館)は実際に活動にしている関係者を、紫波町図書館とエル・ライブラリーは実際の図書館の担当者が説明を行った。昨年度までは選考委員が推薦する有識者が行っていたが、よりわかりやすく、参加者に訴える力も大きくなったと感じた。時間の関係で短い紹介となってしまったことが残念と思ったのは、私だけではないだろう。
 大賞の審査員は選考委員から5名をお願いしたが、今年度の審査員は実際に優秀館のほとんどを訪問していたため、事前の内容把握も進んでいたと思われる。しかし、最終選考会で4機関の紹介を聞いて、やはり最後まで迷うことになった。このことは審査会での発言に表れていたし、大賞投票結果と会場票の投票結果にも示された。(*1)審査員には自身の評価基準を最終選考会場で表明してもらったが、いくつかの共通点があった。それは「連携・つながり」と「継続性」であったと思う。優秀賞受賞館は、それぞれこの点については十分に評価できるサービスや取り組みを行っていた。 
 ことば蔵は、市民との共同・連携による学びと遊びをテーマとしたユニークな取り組みを行っている点、紫波町図書館は、革新的な図書館サービスから住民の信頼を得ていた点、エル・ライブラリーは、市民が専門図書館をささえる関係を構築した点、学芸大学校図書館は学校司書や関係者による協力しデータベースを他の図書館に提供している点、これらの取り組みはまさしく審査員の評価基準に該当するものであったと言える。もちろんベースとなる通常の図書館サービスも優れたからこそ、このような取り組みが行えたことも認識していて欲しい。 
 オーディエンス賞は学芸大学校図書館に決定。初めて学校図書館の取り組みがLoYで評価を得たことに学校図書館への可能性を感じた。
大賞はことば蔵に決定した。1票差という僅差であったが、あえてその要因を考えてみると市民が図書館サービスに自ら積極的に関わっていることにあったと思う。同時に日本の公共図書館サービスもようやくここまで到達してきたとの感慨を持った。

  2016 LoYは、候補機関推薦者、図書館総合展事務局、スポンサー企業の方々、選考委員、IRI担当者、クラウドファンディングで資金提供していただい方々、多くの協力があったことで事業を終えることができたと考えている。この場を借りて感謝を申し上げたい。
  すでに2017 LoYに向けて準備が始まろうとしている。その年のLoYが最良のLoYと言われ、そのことが日本の図書館の活性化につながることを祈念し、関係者一同努力を続けていきたい。

(*1)「READYFOR 事前投票」及び「最終選考会会場票・審査員票」の集計結果はこちら

 

LoY2016最終選考会の模様(動画)はこちら

※選考委員長による選考過程説明の模様と審査員討論会の写真と記念写真

 


 

■大賞・優秀賞受賞のコメント

「伊丹市立図書館ことば蔵」

伊丹市立図書館ことば蔵 園長 綾野昌幸 
 
 この度はLibrary of the Year 2016大賞を賜りありがとうございます。この場をお借りして、最終選考会当日にプレゼンテーションしてくだいました交流フロア運営会議メンバーの若狭健作さんをはじめ、関係各位に厚く御礼申し上げます。
この機会に開館して4年、ことば蔵の歩みを振り返ってみたいと思います。

 「公園のような図書館」…「さて、どうしたものか」
 「公園のような図書館」これが、ことば蔵開館時のコンセプトです。貸本だけじゃない、誰もが気軽に訪れて交流できる公園を目指して、様々な取り組みをしてきました。この公園を管理しているという意味で、私は園長と呼ばれています。ではどうすれば、ことば蔵が地域活性化に資する公園になるのか。
答えは伊丹の誇る強い「市民力」でした。ことば蔵が開館する前から伊丹では、さまざまなイベントなどで市民の力が発揮されていました。ことば蔵が真の意味で「公園のような図書館」になるにはどうしたらいいのか、を考えると「市民の方と一緒に作り上げていくしかない」という結論にたどり着きました。

「つくった」モノを効果的に「つかう」。そのためにヒトを「つなぐ」そしてコトを「つくる」

 行政が整備して、それを上手く使っていただく。そのためには、市民力を新しくオープンする、ことば蔵にどうやって繋げることができるか、がポイントでした。それが開館前から毎月開催しています「交流フロア運営会議」です。この、誰でも出入り自由で交流フロアを使ってやりたいことを発表できる会議で人をつないで、ブラッシュアップした企画でことば蔵の事業を創っていきます。評価していただいた「まちゼミ」や「帯ワングランプリ」もまちの店主や事業者と図書館をつないで実施できている事業です。

「目的」ではなく「目標」

今回いただきましたLibrary of the Year大賞は開館前から運営会議のメンバーや様々な形でことば蔵に関わっていただいている方々と「いつか受賞できるといいね」と合言葉のように励みにしてきました。もちろん、それがことば蔵の目的ではなく、目標としてです。市民力でいただいた賞ですので、本当に多くの方の顔が浮かんできます。

「継続」と「挑戦」

基本的にことば蔵の交流事業は関わる人たちが無理をせず、多額の予算もかけていません。市民力があるからこそ、続けていけるシステムです。しかし、継続しながらも新たなコトに挑戦する姿勢は変わらず持ち続けたいと思います。今度はライブラリアンシップ賞を新たな目標で励みとしまして…今後とも引き続きご支援、ご協力をよろしくお願いいたします。

※プレゼンの模様と大賞受賞を喜ぶ関係者の写真


 

■ライブラリアンシップ賞受賞のコメント

「伊万里市民図書館と伊万里市民図書館友の会 図書館フレンズいまり」

・図書館フレンズいまり 代表 井樋有希

 今年創設された「ライブラリアンシップ賞」を受賞し、喜びのなかにいる「図書館フレンズいまり(略:「フレンズ」)です。今回は、受賞させていただきどうもありがとうございます。
 私たち「フレンズ」は、図書館と「協力と提言」を行える間柄で、よりよいパートナーとして、この20年間歩んできました。「伊万里市民図書館」という名称が示すように、市民のための図書館は、市民の皆様にとっては、「当たり前」な「普通」の図書館です。この「当たり前」な「普通」の図書館が、これからもずっと続くよう、図書館と共に活動していくことが、私たち「フレンズ」の役目だと思っています。そして、もっともっとたくさんの市民の皆様に、「フレンズ」の活動を知ってもらうことも大切なことだと思っています。
 皆様、一度私たちの「伊万里市民図書館」にいらっしゃいませんか?私たち「フレンズ」や図書館スタッフが、喜んでご案内いたします。

・伊万里市民図書館 館長 杉原あけみ

 この度LoY2016において、新設されたライブラリアンシップ賞をいただきまして、この上ない喜びを感じております。伊万里市民図書館を産み、育ててきた友の会の皆様と行政、図書館を愛し、活用してくださる市民と図書館員、20年にわたって、伊万里市民図書館に関わってくださった全ての皆様の情熱と実践力がこの賞へとつながりました。
図書館の不変の原理を大切にしながら、社会の新たな課題を解決するために、市民の方々の役に立つ図書館でありたいと願い、図書館サービスを続けてきました。今回そのことを評価していただき、感謝の気持ちでいっぱいです。受賞を機に、さらに人づくり・まちづくりを支える成長する図書館をめざしていきたいと思いを新たにしております。
「伊万里をつくり 市民とともに育つ 市民の図書館」のスローガンのもと、これからも図書館フレンズいまりとともに車の両輪となって歩んでいきます。ありがとうございました。

※ライブラリアンシップ賞表彰式の模様と受賞コメント中の写真

「READ&LEAD 地域の活性化と住民の幸せに貢献する鳥取県立図書館と県内図書館ネットワーク」

鳥取県立図書館 館長 福本慎一

 この度は、Library of the Year2016に新たに設けられたライブラリアンシップ賞の最初の受賞者として表彰を賜り、本当にありがとうございました。関係者の皆様に厚くお礼申し上げます。
 表彰式には鳥取県立図書館が出席しましたが、この賞は「鳥取県立図書館と県内図書館ネットワーク」に与えられたものであり、表彰式のスピーチでも申しあげたとおり、県内図書館関係者の代表として賞を受けたと思っています。

 鳥取県立図書館としては2006年に第1回のLibrary of the Yearをいただき、当時のビジネス支援などの取り組みを先進的なものとして高く評価していただいたことで、自信を持ってより一層の取り組みにつながったものとして感謝しています。そして、今回の受賞は、その2006年を上回る喜びであります。というのも、それまでのLibrary of the Yearの評価軸になかった長年の継続した取り組みに対する評価であり、この「継続」ということの大変さを実感していたからこそであります。

今回のLibrary of the Year2016優秀賞4館の審査に当たり、審査員のお一人が重要視するポイントとして「継続性」を上げておられました。過去の受賞館を見ても、その後の活動が続いていない例があり、継続性があるのかどうかは大事だとの趣旨でした。
その意味でも、創設から10年の区切りを経て、11年目に入った今年、ライブラリアンシップ賞が創設されたということには大きな意味があるのではないかと思います。
 鳥取県は人口57万人の小さな県ですが、県内すべての市町村に公共図書館があり、県立高校に正職員の学校司書が全校配置され、すべての小中高等学校に司書教諭の配置と時間軽減措置が取られています。また県立図書館内に「学校図書館支援センター」を設け、市町村立図書館とも協力しながら学校図書館を支援していますし、さらに病院や大学とも連携し、小さい県だからこそ顔の見えるネットワークを築いており、これを長年にわたり継続してきてことが今回の受賞につながったと思います。

 さて、10月21日午後2時07分に鳥取県中部で震度6弱の地震があり、中部地区の市町村図書館や学校図書館に大きな被害が生じました。県立図書館では、被災地の混乱にも配慮しながら直ちに県内図書館の被害情報を確認し、ホームページで情報提供しました。そして翌日から県内図書館関係者や学校司書が協力して復旧支援に当たり、多くのボランティアや学校の教職員、生徒たちの力もあって、短期間でほぼ復旧しました。これも、受賞が決定した8月には想定していなかったネットワークの力が発揮された事例と考えていますし、県立図書館だけではなく県内図書館の皆さんにもネットワークの新たな意義を実感する出来事だったのかなと感じています。
 表彰式会場でお会いした多くの皆さんから「地震大変でしたね」、「鳥取県の復旧対応はさすがですね」という言葉をいただきました。おそらくホームページやSNSでご覧になったのだと思いますが、本当にうれしい言葉でした。
 我々鳥取県の図書館は、今回の受賞を励みに、力を合わせて県民の役に立ち地域に貢献する図書館として頑張ります。ありがとうございました。

※ライブラリアンシップ賞表彰式の模様と受賞コメント中の写真