2019年11月13日(水)15時半~17時に開催されたLibrary of the Year(LoY)2019の開催報告と選考委員長コメントおよび受賞機関のコメントを公開します。
2020年1月吉日
IRI事務局
●開催概要
詳細はこちら(PDFリンク)
●選考委員長コメント
LoY2019選考委員長・IRI理事:山崎博樹
今回で14回目となったLoY2019は、11月13日開催された最終選考会をもって終了しました。日本の図書館等が進むべきいくつか道を示してくれた受賞6機関に、賛辞を贈ります。
2019年4月の当会理事会で選考委員長が決定することから、LoYの事業はスタートしました。今年度の選考委員は、12名となりましたが、新規に2名の方に選考委員をお願いしました。エリアも全国に渡り、豊富な経験を持った方々で構成することができました。協賛企業は、賛助金、大賞・ライブラリアンシップ賞の景品をご提供いただいた株式会社富士通システムズアプリケーション&サポート、キハラ株式会社、またオリジナルの木製トロフィーをご提供いただいた株式会社内田洋行の3企業にご協賛をいただけました。
今年度の一次選考は、25機関が推薦されました。すべてが素晴らしい図書館関連サービスを実践している機関ばかりです。二次選考には12機関が選ばれましたが、今年度は特に新しい図書館活動を行っている機関が選ばれたと感じます。
二次選考会は9月12日キハラ本社で一般公開により行われました。結果、4機関が優秀賞、2機関がライブラリアンシップ賞と決定しました。選考委員が議論をしながら最後に投票で決定するのですが、一次選考会の評価と違った結果になることもあります。毎年のことながら、対象機関を選ぶことは大変難しいと感じますが、今年度は学校図書館関係が2機関も選考されたのはLoYの歴史を見ても特筆すべきことかと思います。
ライブラリアンシップ賞は「埼玉県高校図書館フェスティバル実行委員会」、「ビジネス支援図書館推進協議会とその実践者」と決定しました。両機関とも長年に渡り活動を続け、様々な影響を図書館の世界にもたらしてくれました。
「埼玉県高校図書館フェスティバル実行委員会」は「埼玉県高校図書館フェスティバル」、「埼玉県の高校図書館司書が選んだイチオシ本」と様々なイベントを開催し、学校司書の存在と図書館の楽しさをアピールされてきました。市民、書店、出版社、作家と委員が連携し社会性を持った活動を継続してことは特筆すべきことであり、選考委員の多くが賞賛する結果となりました。「ビジネス支援図書館推進協議会とその実践者」はビジネス支援図書館推進協議会(以下BL協議会)が発足から19年を迎え、日本の公立図書館のビジネス支援図書館サービスを牽引し、全国の様々な図書館がそれを実践してきたことを評価したものです。BL協議会が開催しているビジネスライブラリアン講習会は、受講生が昨年度で501名となり、全国で様々な図書館活動を行っています。今年度はALAジャパンセッションにも参加し、日本の図書館活動を世界中にアピールしたことは高く評価できることです。ライブラリアンシップ賞は、対象機関だけではなく、その関係者を対象とした広義の意味合いを込めています。今回も極めて的を射た機関が選考されたと考えます。
優秀賞の機関を決めるため、二次選考に進んだ12機関はどの活動も非常に優れたものであったため大変な議論になりました。結果として最終選考に進めなかった機関でも十分に授賞する価値があったことをここで明記しておきたいと思います。
2019年11月13日、総合展特設会場に200名近い来場者を迎え、最終選考会が開催されました。優秀賞の機関の紹介は、その機関の担当者や推薦者が行っており、今年度は4機関で過去最大の12名の登壇者によりプレゼンが実施されました。毎年プレゼンの仕方が工夫されてきており、今年も8分間という大変短い時間の中で効果的で、参加者にもわかりやすいプレゼン内容になっていることに感心させられました。
大賞の審査員は、毎年度どなたにお願いするか悩むことですが、今年度もそれぞれの分野でトップランナーであり、普段から図書館へもエールを送ってくださる方々5名が引き受けてくださいました。審査員討論会では短い時間の中で的確なコメントをいただき、さらに図書館の本質に迫った発言もあり、考えさせる場面もあったのではないでしょうか。今年は図書館サービスに新しい風を持ち込んで効果を挙げている4機関が優秀賞として候補となり、審査員も最後までどこを大賞とするかで悩んでいたようです。結果、大賞及び会場票によるオーディエンス賞を「札幌市図書・情報館」が受賞しました。
優秀賞の「恩納村文化情報センター」は、「村民サービスと観光サービスをバランスよく満たす村立図書館の新モデル」が授賞理由です。村民への図書館サービスと同村の特徴でもある観光サービスをバランスよく実施されている図書館です。ホテルへの貸出、地域資料の収集、作成等は努力と工夫により実施可能なことであり、今後の小規模図書館のモデルになると思います。「京都府立久美浜高等学校図書館」、授賞理由は「高校生と実社会との繋がりを深める学校図書館改革」です。学校図書館として優秀賞初受賞となりました。高校生、教員、学校司書が連携しながら、地域探究を進め大きな成果を出されてきました。外部協力をもとに様々な事業を行ってきたことも評価されたことです。個人的には学校司書の必要性や力を十分に示してくれたと考えています。「県立長野図書館」、授賞理由「知の公共性をひたむきに志向した、共創の舞台となる情報拠点の構築」です。知の公共性とはなにかという難しい課題を長年にわたり職員や住民とともに追求してきました。体験型児童サービス、社会人・学生に向けたアンカンファレンス、信州・学び創造ラボの提供は、今までの公立図書館のサービスの概念を超えるものあると同時に、これからの公立図書館のモデルを示唆してくれました
大賞、オーディエンス賞を受賞された「札幌市図書・情報館」は「札幌市図書館政策のこれまでとこれから~図書・情報館の誕生~」という授賞理由です。バックヤードのない1500㎡の図書館、NDCを使わない背架、貸出を行わない資料提供は公立図書館のサービスとして前例のないものでありながら100万人を超える来館者があります。背景として計画的に全方位で行われている札幌市の図書館政策、計画的な職員の育成ということが大きな要因となっていると考えられます。このようなサービスをどこの地域でも実施することは難しい面もあると思いますが、図書館を政策的に考え、図書館司書の力を活用するということは、行政や図書館員にもぜひ考えて欲しいことだと思います。
この事業は、4月から12月までの9か月間、候補機関推薦者、図書館総合展関係者、協賛企業、選考委員、審査員、最終選考会サポーターを含め50名の方々の思い、活動により開催が可能になっています。最終選考会の参加された多くの皆様も含め、そのご協力に、この場を借りて感謝を申し上げます。
来年度もLoY2020をぜひ開催したい、この事業そのことが日本の図書館の活性化につながることを祈念し、関係者一同努力続けていきたいと思います。
●受賞機関コメント
○大賞・オーディエンス賞・優秀賞受賞機関コメント
「札幌市図書・情報館」
札幌市中央図書館長:毛利泰大
Library of the Year 2019の大賞、オーディエンス賞、優秀賞、本当にありがとうございます。以下、札幌の歩んできた道やこれからのことなど記させていただき、受賞の言葉とさせていただきます。
いつでも予約、どこでも受け取り
47人の兄弟姉妹。札幌の図書施設たちのことだ。第1子は中央図書館。今年古希を迎えた。末っ子は図書・情報館。10月に1歳になったばかり。そのほとんどは物流ネットワークで結ばれ、利用者はネット予約した本を好きな施設で受け取れる。このこともあり、日に2万冊もの本が市民の手に渡っている。
次の政策~機能分館
第2子以降のほとんどは、中央図書館の「地域分館」。ただ、末っ子の図書・情報館と、その一つ上のえほん図書館は、中央図書館の機能の一部を取り出して強化した、いわば「機能分館」と言えるもの。これは、全市に図書館ネットワークを張り巡らせた次の政策として、新たに打って出たものだ。
末っ子は変わり者
中でも図書・情報館はかなりの変わり者。明確なコンセプトの下、やる、やらないをはっきりさせた。小説・児童書は置かない。本は貸さない。しゃべってもいい。コーヒーもOK。本の並べ方はまるで本屋さん。伝統的な並べ方は「いたしません」。雰囲気も明るく、日々3,000人が訪れる。だが、変わり者であるが故、課題もある。末っ子をどう育てていくか。これからだ。
人を育む
今回の受賞にあたり、札幌の職員育成が評価されたとのこと。とってもうれしい。これまで、研修(Off-JT)、日常業務を通じたOJT、人事異動による様々な図書館での経験、これらを通じ職員の力を着実に引き上げてきた。人事異動で「機能分館」から「地域分館」に移った職員が、専門的な事業を展開している、そんな例もある。
むすび
「松下電器は人をつくる会社です。あわせて家電もつくっています」。この名言のごとく、札幌も施設やネットワークをつくってきたと同時に、人をつくってきた。この連綿と紡がれてきた育成の糸をもっともっと太くして次につなげていく、これこそが私に課せられた最大のミッションであり、今回の受賞に対する誠心誠意のお返しと考えている。
○優秀賞受賞機関コメント
※機関名五十音順
恩納村文化情報センター
恩納村文化情報センター 職員一同
この度は、Library of the Year 2019優秀賞を頂き、ありがとうございます。恩納村文化情報センターを活用してくださっている皆様方、及び関係するすべての皆様に心より感謝を申し上げます。
当館は2017年からLibrary of the Yearの一次選考にノミネートされており今回で3回目となりました。当館を推薦していただき応援していただいた方々ありがとうございます。このように、当館の活動に毎年関心を持って見守っている皆様がいるということは、仕事をするうえで更に大きなモチベーションとなって住民サービスに還元されています。
当館は2015年に開館しました。
恩納村の主産業である観光と図書館を結びつけた活動は恩納村文化情報センター開館構想の当初からあったことでしたが、単に観光情報を観光客に提供するのではなくその間に「村民」を想定した図書館らしい活動をすることを熟考しました。その一環として図書館だから出来る情報提供のありかたのひとつひとつを実践しているつもりです。
- 村民のために集めた情報を観光情報サービスとして提供する
- 村民と共に作り上げる情報を観光情報サービスとして提供する
- そしてそれらの情報は将来、村の財産になる
ということを念頭にサービス展開をして参りました。
「不易流行」、変化しつつも”基本を大切にする”ことが図書館としてあるべき姿だとおもいます。公益性のある図書館サービスとは何なのか、求められていることは何なのか、成すべきことは何なのかを職員一同で日々話し合っています。立ち止まることなく、常に前を見てベストを尽くし邁進していきたいとおもいます。
皆様も恩納村文化情報センターへ是非いらしてください。自然の恵みが大いに感じられる眺望と歴史文化を大切にした周辺環境に触れて、そして何より図書館活動の様子や、住民が生き生きと施設を利用する様子をご覧ください。その土地に来てその土地のありのままを見る、これこそが本来の「観光」です。「観光」を通して、土地の良さと風土を再発見できるそんな仕掛けをこれからも実践してまいりたいと思います。
京都府立久美浜高等学校図書館
京都府立久美浜高等学校 教職員一同
この度は、Library of the Year 2019 において、「優秀賞」をいただき、誠にありがとうございます。学校図書館という、一般にほとんど知られることのない機関の活動に目をとめていただき、関係する皆様方に心より感謝を申し上げます。また、日頃より本校の教育活動に御理解と御協力をいただいている保護者・地域の皆様方に、御礼申し上げます。
今回の受賞にあたり、御評価いただきました「高校生と実社会との繋がりを深める学校図書館改革」は、久美浜高校が1998年度に京都府立高校で初の「総合学科」となり、総合学科だけにある科目「産業社会と人間」のなかで、【仲間・体験・地域】を未来へ繋げることを目指した学校の教育目標に、学校図書館としてどう協同できるかを模索するなかで、日々の授業支援や読書支援のなかでの地元公共図書館との連携や、身の回りのあらゆる物事に探究心の芽生えを促す様々なワークショップの開催、地域住民と高校生の隔たりを取り払う学校図書館の一般公開、地域のなかに学びの機会を創り、生徒や教職員の参加を促すウィキペディアタウンの開催など、生徒達の高校卒業後の未来、すなわち地域社会への橋渡しを念頭に取り組んできた学校図書館の活動理念そのものです。
京都府立久美浜高等学校は、学校再編により、2020年度からは京都府立丹後緑風高等学校久美浜学舎となり、学科も「みらいクリエイト科」と「アグリサイエンス科」と形を変えますが、久美浜高校総合学科における学校図書館の理念は、新たな学校のなかで「丹後地域の自然・歴史財産を活用した新しい時代に求められる探究心の育成」が第一の教育目標に掲げられたように、より深度を増し、引き継がれます。今後とも本校の教育活動を基とした図書館活動に、また、全国で同様に、子ども達の未来を一般社会に繋げるべく尽力しておられる学校図書館に、御注目いただきますよう、よろしくお願いいたします。
結びにあたり、Library of the Yearのますますの発展と、関係する皆様方の御健勝と御活躍をお祈り申し上げます。この度は誠にありがとうございました。
県立長野図書館
県立長野図書館 職員一同
このたびはLibrary of the Year 2019 優秀賞を賜り、本当にありがとうございました。
県立長野図書館では、この5年間「情報と情報」「情報と人」をつなぎなおし「人と人」をつなぐことを事業の軸として、たくさんの方々と共にこれからの「図書館」さらには「公共」のあり方を考え、創っていくための様々なチャレンジを重ねてきました。
新しい「情報・空間・人」のあり方について考えることは、図書館のみならず今の困難と可能性に溢れた時代の社会にとって最も重要なテーマだと考えるからです。
受賞理由に挙げていただいた「知の公共性をひたむきに志向した,共創の舞台となる情報拠点の構築」とは、そのようなプロセスへの評価と、その向かう先にあるべき社会の中に再定置される図書館のありように対する期待だと受け止めております。
また、今回の受賞は、これまで当館と共に考え、歩んでくださった信州内外のすべての方々のものであり、この場をお借りして改めて感謝申し上げます。
人と人をつなぐ
「共知・共創―共に知り、共に創る」をコンセプトに掲げた「信州・学び創造ラボ」の整備段階、またオープン以後の連続ワークショップで一貫して大切にしてきた視点は「体験をデザインする」ことです。
「サードプレイス」「コラーニング」「カフェ」「賑わい」など、既にある場や関係性を表す言葉からメニュー選びをするのではなく、「今」「ここ」で起こって欲しい体験はどんなものなのかをみんなで考える。そこでの行為規範も自分たちで考え、創り出すような、自立した市民による「学びと創造の自治」の空間を目指すこと。
それは、「どうしたら新しい価値を創造する多様なコミュニティを創ることができるのか」を模索し、これからの図書館の空間や運営の可能性について地域や社会に提案することです。それは、情報と人が集まる公共図書館だからこそできることだと考えます。
今後も、「公共=Public」とは何なのかと問い続けながら、何よりもみんなが楽しく、また自然に考えられるような場と機会をつくっていけたらと思います。
情報と情報、情報と人をつなぎなおす
また当館は、人々が本のみならず自由にデジタルな情報に触れられる基盤を整え、それを活用し、新たな社会的価値を生み出す力を身に付けていくためのサポートをしていくことも、これからの図書館にとってとても大切な役割だと考えます。
図書館を起点としてつながる人々が、地域社会において新たな情報を創造し、蓄積し、これを分かち合う基盤として、知の循環を担う「コモンズとしての図書館」を目指し、今後も空間、情報、人のつながりに関する様々なことに取り組んでいきます。
新しい知のプロセスを実験する
わたしたちのこの「実験」は当館の中で完結するものではなく、長野県内の市町村や学校の図書館に向けての「問いかけ」です。情報基盤社会における地域の拠点として、学びの拠点として、それぞれのまちのそれぞれの図書館や知の拠点がこの先もっと自由に活動していくことが目標です。お金も人も少ないけれど、「一緒に考える」ことを基本にしながら、広い信州の図書館同士、一緒に進んでいきたいと思っています。
これからも県立長野図書館は、信州における多様な知を分かち合い、伝えていくこと、そして、表現すること、創ることを大切にしながら、たくさんの人たちの「知ること」をサポートし、自由に情報に触れられる基盤を整えていくことに尽力していきます。
わたしたちの取り組みに共感していただける全国の皆さんには、引き続きご支援、ご協力をお願い申し上げます。