図書館界に新しい風を
ライブラリー・オブ・ザ・イヤーの原点

文:大串夏身 

 「図書館界に新しい風を!新しい文化を!」というのが、ライブラリー・オブ・ザ・イヤーの原点、出発点にある。これは、ライブラリー・オブ・ザ・イヤーを発議した高山正也先生、またその提案にこたえた田村俊作、糸賀雅児、柳与志夫ら諸氏、それに私の共通した想いだったと思う。個人的には特にその想いを強く持った。

 ライブラリー・オブ・ザ・イヤーがはじまった2006年は、どのような年だったかと言うと、1995年のブルッセルG7情報閣僚会議で合意された11のプロジェクトが取り組まれ10年が経過して、電子政府、電子商取引、電子図書館、電子博物館等が具体的に姿をあらわし、新しい社会の到来が実感できるようになった年だ。また、文部科学省これからの図書館の在り方検討協力会議が「これからの図書館像-地域を支える情報拠点をめざして」を発表して、新しい図書館の方向を示した年でもあり、さらにAKB48が一枚目のシングルを発表して、サブカルチャーの領域に新しい風を吹き込んだ年でもあった。

 当時、公共図書館には沈滞したムードがただよい、若い人たちが自由にモノを言えない。図書館の評価は貸出一辺倒の硬直したもので、こうした状況を変えたい―その合言葉「評価は、良いものは良いと言おう」というものだった。

 本は、多様な内容を持っている。それは人々のさまざまな活動に生かされることによって新しい価値を社会に、個人にもたらす。図書館はそれをもたらすためにさまざまなサービスを展開しなくてはならない。図書館の評価はそうした社会個人との関係で行われるもので、その評価は多様なものでなくてはならない。ひとつでも良いものがあれば、それを評価しよう。多様な評価と自由な議論を通して、来たるべき新しい社会にふさわしい図書館を考えよう。これがその合言葉にひめられた想いだ。

 これは、時あたかも一枚目のシングル『桜の花びらたち』を発表したAKB48の軌跡1とよく似ている。AKB48の『桜の花びらたち』の冒頭に過去との決別を象徴する鐘の音が鳴りわたる。それは、二枚目『スカート、ひらり』の最後「スカート、ひらり ひるがえし/ハートに火がついたように/私たち 何をしても/許される年頃よ」。三枚目『会いたかった』の「好きならば/好きだと言おう/誤魔化さず/素直になろう/好きならば/好きだと言おう/胸の内/さらけ出そうよ」と続き、サブカルチャーシーンに新しい風を吹き込み、新しい文化創造へと滑空をはじめるのだ。「好きならば好きだと言おう」「良いものは良いと言おう」、その共通するフレーズは「誤魔化さず、素直になろう」だ!!

 AKB48が飛翔したようにライブラリー・オブ・ザ・イヤーが飛ぶことができたかというと、それは比較することが無理というものだろうが、図書館界に新しい風を吹き込むことはできたのではないだろうか。もっともこれも、十年後、二十年後の歴史の評価にゆだねる他ないが―。

  1. AKB48のシングルを10年分、発売順に収録したCD『0と1の間[Complete Singles盤]』(キングレコード、2015年)には、「AKB48 10年の軌跡」というドキュメンタリー映像が収録されている。
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